廃校活用による地域活性化事業の挑戦と経営実態 – [谷山のりかさん]
全国で毎年増え続ける「廃校」。
活用の必要性は語られても、
“事業として本当に成り立っている例”は、どれほどあるだろうか。
山形県米沢市にある三沢東部小学校も、そのひとつだった。
2023年に廃校となり、活用の行方が模索される中、
一人の移住者が、民間事業としてこの場所に向き合うことを決めた。
社会貢献で終わらせない。
きれいごとではなく、経営として成立させる。
その覚悟の裏側には、
不安、葛藤、支えてくれる人の存在、
そして「それでもやる」と決めた理由があった。
本記事では、三沢東部小学校合宿所事業に携わる、谷山のりかさんの言葉を通して、
廃校活用の“理想と現実”を、ありのままに伝える。
インタビュー|Q&A

Q1: 米沢市で廃校活用事業に携わることになった経緯を教えてください。
谷山のりかさん:
大学卒業後は、福岡県と香川県で民間のまちづくり会社に勤務していました。その後、2022年に米沢市へ移住し、地域おこし協力隊として活動を始めました。
協力隊の任期3年目を迎えた頃、地域の方から声をかけていただき、廃校となった三沢東部小学校の合宿所運営に関わることを決めました。

Q2: 三沢東部小学校は、どのような流れで合宿所として事業化されたのですか?
谷山のりかさん:
三沢東部小学校は、2023年3月に廃校になりました。
その後、卒業生や地域住民の方々が集まり、「この学校をどうしていくか」について話し合いが行われました。そこで多く聞かれたのが、「もう一度、人が集まる場所にしたい」という思いでした。
市としては税金を使った施設整備には消極的でしたが、当時の市の担当者や地域の方々が中心となり、合宿所として活用する案が生まれました。国連系の合宿団体を見つけるなど、少しずつ事業化の道筋がついていきました。

Q3: 事業を始めるにあたって、不安はありませんでしたか?
谷山のりかさん:
正直に言うと、不安よりも期待のほうが大きかったです。
地域を本当に愛して、再生のために動いている人たちがいることを知っていましたし、米沢の魅力に惹かれて移住してくる人が多いことも実感していました。
「めっちゃ面白そうだな」と思いましたし、全国的にも珍しい取り組みなので、「人の力でどこまでできるのか試してみたい」という気持ちが強かったです。

Q4: ご家族の反応はいかがでしたか?
谷山のりかさん:
夫は「面白そうだね」と、かなり好意的に受け止めてくれました。
夫は普段から事業立ち上げを支援する仕事をしているので、事業計画書の作成や資金調達の大変さも理解しています。
だからこそ、「自分も一緒にやるよ」と言ってくれて、実際に相談に乗ってくれたり、支えてくれたりしています。

Q5: 周囲から反対や否定的な意見はありましたか?
谷山のりかさん:
直接的な否定の声は、ほとんどありませんでした。
むしろ「やってくれてありがとう」と言ってもらえることのほうが多かったです。
ただ、同じ廃校活用事業をしている方からは、固定費や改修費が想像以上にかかること、過疎地で商売をする難しさについて現実的な指摘を受けました。「本当にやるの? 今ならまだ引き返せるよ」という、心配からのアドバイスだったと思います。

Q6: 開業から半年が経ちましたが、今の状況はいかがですか?
谷山のりかさん:
多くのお客さんに来ていただき、楽しんでもらえている実感はあります。経営面でも、少しずつ自信はついてきました。
ただ、現状に安心しているわけではありません。アスリートのような感覚で、常に新しいお客さんとの出会いや満足度の向上を考え続けています。体力的には、正直「今もしんどい」という状態が続いています。

Q7: 「やっていて良かった」と感じるのは、どんな瞬間ですか?
谷山のりかさん:
お客さんが学校の中で子ども時代の話をしたり、思いきり走り回ったりして、キラキラした表情を見せてくれる瞬間です。
その姿を見ると、「本当にやってて良かったな」と心から思います。
少しずつですが、「良い場所が作れてきている」という手応えを感じています。

Q8: 振り返ってみて、後悔していることはありますか?
谷山のりかさん:
経営の経験が足りなかったこともあり、もっと早い段階からサービス開発などの準備を進めておけば良かったと感じています。
また、市内で初めての民間による廃校活用だったため、行政や消防の許可に想定以上の時間がかかり、結果として2〜3ヶ月ほど売上を逃してしまいました。
廃校活用は、通常よりも時間がかかる前提でスケジュールを組むべきだったと反省しています。

Q9: 今後のビジョンを教えてください。
谷山のりかさん:
全国でも珍しい、「地域の企業が、指定管理ではなく、自社事業として廃校で宿泊業を営む」というモデルを、社会貢献の美談で終わらせたくありません。
きちんと事業として成立するモデルケースを築きたいと思っています。
この取り組みが、同じような課題を抱える他の地域の役に立てたら嬉しいです。
インタビュアー後記
廃校活用という言葉には、どこか「きれいな話」のイメージがつきまといます。
地域のため、未来のため、子どもたちのため——。
けれど今回のインタビューで強く感じたのは、そうした言葉だけでは語れない、等身大の現実でした。
のりかさんの言葉から伝わってきたのは、情熱や理想だけではありません。
準備不足への後悔、許可が下りない期間の焦り、体力的なきつさ。
それでもなお、「今もしんどい」と正直に語りながら、歩みを止めていない姿が印象的でした。
印象に残っているのは、
「お客さんがキラキラした顔で楽しんでいるのを見ると、やってて良かったと思える」
という言葉です。
事業の数字や制度の話よりも先に、“人が楽しんでいる光景”が語られるところに、この場所が持つ本質があるように感じました。
三沢東部小学校の合宿所事業は、まだ完成形ではありません。
むしろ、試行錯誤の途中にあります。
だからこそこの挑戦は、社会貢献の成功談ではなく、「事業として自立すること」を本気で目指す、進行形の物語なのだと思います。
廃校は、役目を終えた瞬間に価値がなくなる場所ではありません。
誰かが本気で向き合い、覚悟を持って関わることで、再び人が集い、記憶が重なっていく場所になる。
今回の取材は、そのことを静かに教えてくれました。
DEWAはこれからも、こうした「派手ではないけれど、確かに続いている挑戦」を記録し続けていきます。
この場所のこれからも、また追いかけていきたいと思います。