スープも麺も、氷が張るほど冷たい。そんなラーメンが、山形にある
丼を覗き込むと、透き通ったスープの中で氷がカラン、と音を立てる。すすってみると、まず驚くのは温度だ。熱くない。生ぬるくもない。キンキンに冷えている。麺はキュッと締まってコシが強く、まるで冷たい蕎麦のような喉ごし。ラーメンという食べ物に対する常識が、一瞬でひっくり返る感覚——それが山形市発祥の「冷やしラーメン」です。
「温かいラーメンを、ただ冷ましただけでしょう?」と思うかもしれません。実はそうではありません。冷やすと脂が固まってまずくなる、麺がのびて食感が悪くなる——そうした”冷やすと不味くなる”という壁を、山形の一軒のそば店が約1年がかりで乗り越えて生まれたのが、この一杯です。この記事では、その誕生秘話から、今すぐ食べに行ける山形市内のお店、おうちで再現する方法まで、知れば知るほど食べたくなる情報をまとめました。
30秒でわかる、山形の冷やしラーメン
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発祥 | 1952年(昭和27年)、山形市「栄屋本店」 |
| 特徴 | スープも麺もキンキンに冷たい。醤油だしベースで酸味は控えめ |
| きっかけ | 常連客の「冷たいラーメンも食べたい」という一言 |
| 食べられる時期 | 夏季限定の店が多いが、元祖・栄屋本店は通年提供 |
| 山形とラーメン | ラーメン消費額(総務省調査)で4年連続日本一 |
参考:冷やしラーメンの起源は山形のそば屋だった!『栄屋本店』の飽くなき探求が生んだ一杯|favy
なぜ、こんなに冷たいのか
山形市は盆地に位置し、夏は蒸し暑さがこもりやすい土地です。1933年(昭和8年)には40.8度を記録。これは、2007年に熊谷市・多治見市で40.9度が観測されるまでの74年間、日本の観測史上最高気温として破られなかった記録です。ラーメン評論家の大崎裕史氏は「冷たい蕎麦からの発想で、ラーメンも冷たくなったのではないか」と分析しています。うだるような夏を、どうにか美味しく乗り切りたい——そんな土地の切実さが、この一杯の背景にあります。
事の発端は、常連客のひとことだった

参考:冷やしラーメンの起源は山形のそば屋だった!『栄屋本店』の飽くなき探求が生んだ一杯|favy
冷やしラーメン発祥の店として知られるのが、1932年(昭和7年)創業のそば店「栄屋本店」。転機となったのは、ある常連客の何気ないひとことでした。
「夏は冷たい蕎麦を食べるのだから、ラーメンも冷たいのが食べたい」
この一言を受け止めたのが、職人気質だった初代店主・阿部専四郎です。当時、ラーメンは温かく食べるのが当たり前。前例のない挑戦が、ここから始まります。
完成までの1年、最大の壁は”脂”だった
温かいラーメンを、そのまま冷ますだけでは商品にならなかったといいます。スープを冷やすと、脂がゼラチン状に固まってしまうのです。これを丁寧に取り除く必要がありましたが、今度は脂を抜いた分、味がぼやけて物足りなくなってしまう。「冷やすと固まる」「脂を抜くと味が薄くなる」という二つの壁に挟まれながら、試行錯誤が続きました。
たどり着いた答えは、脂を抜いたスープに植物油を加えてコクを補うという発想の転換。約1年にわたる開発期間を経て、1952年(昭和27年)の夏、日本初の冷やしラーメンが完成し、メニューとして売り出されました。
面白いのは、まったく同じ1952年の2月に、遠く離れた福島県会津坂下町でも、風邪で食欲がなくなった女性のために麺を水で洗って提供したのがきっかけの、別の「冷やしラーメン」が誕生していたという記録があること。冷たいラーメンというアイデアは、示し合わせたわけでもないのに、同じ年に別々の場所で生まれていたのです。
「冷やしラーメン」は、実は地域によって別物
「冷やしラーメン」という名前は全国各地にありますが、中身はかなり違います。同じ名前だからと油断すると、山形で食べたときのギャップに驚くかもしれません。
| 地域 | 特徴 |
|---|---|
| 山形市 | 醤油だしベース。酸味は控えめで、氷が浮くことも |
| 北海道 | 冷やし中華のことを「冷やしラーメン」と呼ぶ地域も |
| 新潟県長岡市栃尾地域 | 1950年代から続く、細麺・醤油味の「冷やし丼」 |
| 静岡県志太郡 | 酢を使わない甘口スープ。戦前から提供する店も |
冷やし中華のような強い酸味を期待していると、山形の一杯は少し意外に感じるはずです。あくまで”冷たい醤油ラーメン”というのが、山形の個性です。
今すぐ行くなら。山形市内で食べられる代表的な10店
「山形 冷やしラーメン 店」を探している方向けに、味の系統がなるべく重ならないよう、山形市内の代表的な10店を選びました。同じ”冷やしラーメン”でも、店によって出汁も麺もトッピングもまったく別物。目移りするほど個性豊かなので、自分の好みに近い一杯を探す参考にしてください。営業時間・価格・季節限定メニューの有無は変動するため、訪問前に必ず公式情報やSNSをご確認ください。
栄屋本店

- 強み:冷やしラーメン発祥の元祖店。かつおと昆布でとった醤油だしは、氷が溶けても味がぼやけないのが自慢
- アピールポイント:太めの麺と、キンキンに冷えた氷入りのスープ。夏だけでなく通年で味わえる
- おすすめな人:まずは”本場の基準”を知りたい人、山形観光で1軒だけ選ぶなら外したくない人
参考:https://www.oshimen-yamagata.jp/shop/chufuto/sakaeya-honten/
栄屋分店

- 強み:栄屋本店からのれん分けした系列店。地元では本店以上に通う人も多い実力派
- アピールポイント:牛骨醤油ベースのすっきりしたスープに、珍しい牛肉チャーシューが乗る「冷やしワンタンめん」が人気
- おすすめな人:本店と食べ比べてみたい人、あっさり系よりもう少し肉の旨みが欲しい人
参考:https://michael-behrndt.de/details/f0a7751531801
城西金ちゃんラーメン

- 強み:自家製の手もみ麺にこだわる、行列必至の人気店
- アピールポイント:コシの強い平打ち麺と、器ごと冷やして提供されるスープ。チャーシュー・メンマ・キクラゲなどトッピングも豪華
- おすすめな人:麺の食感を重視したい人、しっかりボリュームのある一杯を食べたい人(早めの来店がおすすめ)
参考:https://www.nta.co.jp/media/tripa/articles/2STnq
すゞ木屋

- 強み:創業50年以上、そばとラーメン両方を看板にする地元の老舗
- アピールポイント:牛骨だしの冷麺のようなスープに、生姜と鷹の爪でピリッとアクセント。かいわれときゅうりが涼しさを演出
- おすすめな人:昔ながらの町中華らしい味を求める人、少し辛味のあるアクセントが欲しい人
参考:https://www.instagram.com/p/C-G0b_kzfQw/
鬼がらし本店

- 強み:辛子みそラーメンで名を知られる専門店
- アピールポイント:味噌冷やしラーメンは辛さを5段階から選択可能。「冷やし塩納豆ラーメン」など変わり種メニューも。6月初旬〜9月末の期間限定
- おすすめな人:辛いものが好きな人、定番とは違う個性的な一杯を試したい人
参考:https://ramenblog.info/onigarashi-yamagata-20170825/
廣東

- 強み:創業40年、地元で長く愛されてきた実績店
- アピールポイント:「冷やしやまぶき麺」はレモンと鶏ハムを使った、後味の爽やかな一杯
- おすすめな人:さっぱりした柑橘系の香りで暑さを吹き飛ばしたい人
参考:https://e-yamagata.com/eyamab/0236240395/2024/06/10/new/181
だるまや 本店

- 強み:ラーメンのバリエーションが豊富で、飽きずに通える人気店
- アピールポイント:夏季限定の「冷やし味噌ラーメン」や「レモンみそラーメン」など、醤油味以外の選択肢も充実
- おすすめな人:味噌ベースが好きな人、いろいろな味を試したい人
参考:https://samidare.jp/~lavo/yamagatan/note.php?p=log&lid=53495
俺の中華 たなか家 本店

- 強み:季節限定メニューとして冷やしラーメンを提供する人気中華店
- アピールポイント:透明感のあるスープはほんのり酸味のあるさっぱり系。麺の硬さを選べるのも嬉しいポイント
- おすすめな人:酸味を少し感じたい人、冷やし中華に近い感覚で食べたい人
参考:https://gailog.blog.fc2.com/blog-entry-2526.html
そば処 きむら

- 強み:カフェのようなおしゃれな外観で、そばと冷やしラーメンの両方が楽しめる店
- アピールポイント:出汁がしっかり効いた醤油味で、そば屋らしい丁寧な仕事が光る
- おすすめな人:落ち着いた雰囲気でゆっくり食べたい人、そばと食べ比べたい人
参考:https://www.oshimen-yamagata.jp/shop/hosomen/kimura/
さかい

- 強み:昭和の雰囲気をそのまま残す、地元密着の食堂スタイル
- アピールポイント:白いキクラゲがたっぷりのった、見た目にも涼しげな一杯
- おすすめな人:観光地化されていない、地元の空気ごと味わいたい人
現地に行けない、もう一度あの味を楽しみたいという方には、お取り寄せもおすすめです。元祖・栄屋本店は生麺・乾麺やセット商品をネットショップで販売しており、遠方からでも本場の味を再現できます。
参考:https://ramenblog.info/sakai-yamagata-20170825/
おうちで再現するなら
本格的な仕込みは難しくても、コツさえ押さえれば家庭でも近い味を再現できます。
- 醤油・だし(鰹節や昆布など)でスープを作り、しっかり冷ます
- 冷めたスープの表面に浮いた脂を丁寧に取り除く(本場のひと手間はここ)
- 太めの中華麺を茹でて、流水と氷水でよく揉み洗いし、ぬめりを取りながらしっかり締める
- 丼にスープと麺を入れ、氷を数個浮かべる
- きゅうり、トマト、チャーシュー、海苔などをトッピングして完成
コクを足したいときは、スープにサラダ油やごま油を少量加えるのがポイント。「脂を抜いてから、旨みだけ油で補う」という元祖の発想を、家庭でも再現できます。老舗の中には牛すじや牛モモ肉の動物系だしと、昆布・かつお節・煮干しの魚介系だしを合わせる”ダブルスープ”で仕込む店もあり、そちらは手間がかかる分、奥行きのある味わいになります。
よくある質問
Q. いつ食べられますか?夏だけですか? 多くの店では夏季限定メニューとして提供され、初夏から初秋にかけてがシーズンの目安です。ただし元祖の栄屋本店のように、夏だけでなく年間を通して提供している店もあります。
Q. 冷やし中華と何が違いますか? 冷やし中華は酸味のあるタレが特徴ですが、山形の冷やしラーメンは醤油だしベースで酸味は控えめ。あくまで”冷たい醤油ラーメン”という位置づけです。
Q. 山形はそんなにラーメンが有名なのですか? 総務省「家計調査」(中華そば・外食)によると、山形市の2025年のラーメン消費額は25,102円で4年連続日本一。2位の新潟市(19,073円)、3位の宇都宮市(17,211円)を大きく引き離しています。冷やしラーメンが生まれたのも、こうした土壌があってこそと言えそうです。
まとめ:常識をひっくり返す一杯を、山形で
温かいのが当たり前だったラーメンを、脂の固まりという壁を乗り越えてまで冷たく仕上げた一軒のそば店。その執念が、今では山形を代表する夏の味覚になっています。写真で見るのと、実際に丼を覗き込んで氷の音を聞くのとでは、きっと体験がまったく違うはずです。この夏は、常識をひっくり返す一杯を求めて、山形へ出かけてみませんか?
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